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指輪の価値(後編)

(前回の続き)

私がふと手にしたタウンページを一心不乱にめくると、そこに書かれた、枠に囲まれた広告が目に止まった。

「貴金属加工45年」

・・・正確な文字は忘れてしまったが、「貴金属加工」と「45年」は私の目に強く焼きついた。そして私はすかさず記載されている番号に電話をかけた。

「はい」

と商売っ気無く出たのは、いかにも職人っぽい、歳を重ねた男性の声だった。私が「指輪が変形して指から抜けない」旨を必死に話すと、電話口からは

「んじゃすぐ持って来なさいよ。対処してあげるから(^^」

という、自身に満ちた声が帰ってきた。私は調布からバスを乗り継ぎ、小金井にある、その人の所に向かった。電話で説明された所に到着すると、ふつうの一軒家に、看板がかかっているだけの、いかにも自営業という感じのところだった。インターホンを押すと、電話の主と同じ声で話す、白髪で初老な感じの、職人さんと思われる粋な男性が出迎えてくれた。

「先程電話した者ですが」
「さぁ、中へどうぞ」

というような会話をしたと思う。中に通されると、普通の家に応接セットがある、という感じだった。私の亡くなった父は布カバン製造の自営業をしていて、昔住んでいた実家の応接も同じような感じだったので、非常に昔懐かしく感じた。

おそらく還暦を超えてらっしゃるであろう、その男性は、私の指に留まっている、俵型にひしゃげた指輪を見て、「ああ、これはもう切るしか無いねぇ」と言った。私が「そうですか・・・」と不安になると、「大丈夫、またくっ付けてあげますよ(^^」と、またもや自身に満ちた声が帰ってきた。製造販売元の本店に電話しても応じてもらえなかった件を話すと、

「ああ、お店はそう言うでしょうねぇ、面倒がって。でもうちは指輪の修理を45年やってますから、できないことはありませんよ。」

という返事が帰ってきた。そのあまりもの頼もしいお言葉に、私は「この人に託そう」と私は確信し、慎重に指輪を切断してもらって外した後、修理を依頼することにした。ちなみに修理費は2000円とのこと。数万レベルを覚悟した私は、まずはひと安心した(^^;。

依頼から2日後、電話があり、「指輪が直った」との連絡があったので、「2日で直ったのか」と驚くと同時に、期待感に胸をふくらませて、私は再び小金井の職人を訪れた。

出来上がった指輪を見せていただくと、確かに継ぎ目の部分は、良く見ないと分からない加工跡があったり、切断した箇所の内面の刻印が消えていたりはしていたが、あのひしゃげた指輪はまん丸に戻っていた。指に着けている限りでは全く分からず、ほぼ元通りになったとのことで、いたく感動し、私は「へぇ〜」を連発した。例の青いボタンがあれば連打したい気分だった(^^;。

指輪を見ながらおじさんに、「すごいですねぇ〜」と言うと、「だてに45年やってませんよ〜(^^」という、またもや自身に満ちたお言葉。これで修理代が2000円だなんて、信じられない気持ちだった。すっかり舞い上がった私は、その後思わず、1時間近く話し込んだ。おじさんの話で印象に残った話を要約すると、以下のとおり。

・タウンページを見て来てくれるお客さんは多く、今日(訪ねた日)も新しく3人ほど訪ねて来てくれた。

・切れた指輪の接合や、サイズ直し(縮小、拡大)、オーバーホール等を、1000〜2000円程度で行っている。他で断られたものでも、持ってきてもらえれば、状態を判断して、たいていのものはリスクも説明して、最終的にはできるものも多い。どうしても不可なものはお断りするが、他でできないと言われたものを修復できた時は、うれしい。

・ブランド品は、地金がはっきりしているから、接合やサイズ拡大等に使う金属も間違うことは無いので、きちんと修理することが可能。逆に、出所の定かでない、地金のはっきりしないものは、うまくできないこともある。

・18金やプラチナの貴金属類は、カタログの価格の40〜50%引きで販売している。知り合いで購入を検討している人がいれば、紹介して欲しい。オリジナルデザインの宝飾品も制作する。最近はデザイナーが持ち込んだデザインをもとに制作することも多い。

・「一級技能師」という資格は、鋼から輪っかを作り指輪に仕上げる技能等を認定する資格で、現在では金属を溶かして型に流し込む「キャスト」という方法が主流なので、この資格を持っている人は少ない。取得当時は何も分からず取ったが、今になると、この資格の重宝さがしみじみとわかる。

・・・等、名刺をいただき、カタログや、作品の写真の数々を見せていただきながら、しゃべるおじさんの顔は得意気で、満面の笑みだった。現在はタウンページと、チラシの手配りだけで、十分お客さんは来てくれるとのことだったが、私は思わず「インターネットで紹介させて下さい」とお願いしてみた。するとおじさんは、「ああ、イイですよ。自分でやろうと思うけどなかなかできないんだよね。それでお客さんが増えたら、何かお礼しますよ」とまで言われたが、私は「そんな、一個人が紹介するだけですから、お礼とかは結構ですよ(^^;」と、そんなやり取りもあったのを覚えている。

話し込むうちに私の職業も訊かれ、「システムエンジニアです」と答え、当時の名刺を渡した。その後は、私の仕事についても多少話し、最後に、もう一度インターネットの話になった。私が当時、某メーカの子会社に勤めていたので、インターネット関係の商売をやっているとカン違いされたのかも知れない(^^;。

最後に、お世話になった職人さんの連絡先を紹介しておく。困っている方は是非一度連絡してみて欲しい。

大場宝飾工芸
〒184-0005 東京都小金井市桜町1丁目8−23
TEL:042-384-1801

(ちなみに、インターネットタウンページで、キーワードに「大場」、住所に「小金井」と入れると、すぐに出てきます)

約一年半の月日が経過し、私も関東から関西に引っ越してしまったが、なかなか紹介できず、ずっと心に引っかかっていた。今こうしてやっと紹介することができて、当時のことが生々しく思い出されてくると同時に、少しでもお役に立てたら、という気持ちでいっぱいである。お孫さんとかはインターネットをされているみたいなので、この投稿をいずれは見つけられることだろう。(遅くなってすみません>大場さん)

私の指輪は製造元のロゴの部分が消え、ブランド品としての価値は無くなってしまったが、大場さんの丁寧な仕事により、この世に二つとない、私だけに価値のある指輪として復活した。これからもこのことを忘れずに指輪を大事にして、一生大事に身につけていたいと思っている。

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